なぜ、新社会人は「水」を選ぶのか?調査データで解き明かす、次世代のワークスタイル
初めての夏を迎える新社会人たち。日々の生活リズムが変化するなかで、彼らが手に取る一杯の飲みものには、現代を生きる若者のリアルな価値観や消費行動が色濃く映し出されている。
「株式会社ナック」が2025年に実施した『新社会人の「飲みもの」事情に関する調査』は、そんな彼らの日常の一端を明らかにした。学生時代とはひと味違う選択基準、そしてその背景にあるものとは何か。

「お財布事情」に変化あり
新社会人の飲料費、リアルな実態
安心・安全でおいしい宅配水「クリクラ」を展開する「株式会社ナック」の調査によれば、新社会人のうち48.8%が、学生の頃と比較して1ヵ月の飲料にかける金額が「増えた」と回答。これは、自由に使える可処分所得が増えたことの直接的な現れかもしれない。しかし、そのお金の使い道は、実に興味深い結果を示している。
「日常的にもっともよく飲むものは?」という問いに対し、トップに輝いたのは「水」(54.4%)。次いで「お茶」(51.2%)、そして「コーヒー」(37.3%)と続く。数ある選択肢の中から、もっともシンプルともいえる「水」が過半数の支持を集めている事実は、何を物語るのだろうか。
飲料の購入場所については、「コンビニ」「スーパー」が43.7%と最多。アクセスの容易さや品揃えの豊富さが、彼らのライフスタイルに合致しているようだ。
同調査で、なぜ「水」を選ぶのか、その理由に目を向けると、「水が好きだから」(35.7%)が1位であるものの、「おいしいから」(25.4%)、「美容効果を期待」(23.0%)、「健康によいと思うから」(22.6%)といった回答も無視できない。さらに、市販のペットボトル水を購入する層が41.3%存在することも、現代的な消費スタイルを象徴している。


「節約」だけがすべてじゃない
「水」を選ぶ新社会人の、賢い価値観と本音
新社会人が「水」を選ぶという行動。その背景には、近年の物価上昇の影響も少なからずあるだろう。総務省統計局が公表する消費者物価指数を見ても、食料品を含む多くの品目で価格が上昇傾向にあり、飲料もその例外ではない。事実、日本コカ・コーラは2023年5月以降、大型ペットボトル製品などの価格を改定。このような経済状況が、比較的安価な水という選択を後押ししている可能性は否定できない。
しかし、彼らの選択を「節約志向」の一言で片付けてしまうのは、あまりにも表層的。現代の若者は、単に安いものを求めるのではなく、支払う価格以上の価値、コストパフォーマンスを重視する傾向にある。そして、その「価値」は金銭的なものだけにとどまらない。ナックの調査結果で、水を飲む理由として「美容効果」や「健康」が挙げられている点は、まさにその証左。彼らにとって水は、渇きを癒すためだけのものではなく、自身のウェルビーイングを維持するための投資という意味合いも帯びているようだ。
近年注目される「ウェルパ(ウェルビーイングパフォーマンス)」という概念は、身体的・精神的・社会的に満たされた状態を「食」を通じて実現しようとする考え方を示すという。情報が溢れる現代において、新社会人たちは、自分にとって本質的に何が必要かを見極め、日々の小さな選択にもその価値観を反映させているのかもしれない。
マイボトル持参は“意識高い系”の証?
それとも、次世代のスタンダードか
飲料の購入場所としてコンビニやスーパーが主流であるいっぽうで、マイボトルの利用もまた、見過ごせないトレンドとなっている。もちろん、環境問題への関心の高まりと無縁ではないだろう。
新社会人という、これからの社会を担う世代が、サステナビリティやエシカル消費といった理念に共感し、マイボトルという形でそれを実践している姿は想像に難くない。それは、単に飲料費を抑えるという経済的な動機だけではなく、地球環境への配慮や、よりよい未来社会への貢献といった、彼らなりの積極的な意思表示と捉えることもできる。
一杯の飲みものを選ぶという日常的な行為。そこに、新社会人たちの経済感覚、健康や美容への意識、そして社会や環境に対するスタンスが凝縮されている。彼らは、変化の激しい現代社会を、自分なりの価値基準で賢く、そしてしなやかに生き抜こうとしている。その小さなグラスの中に、私たちはこれからの時代の価値観の萌芽を見ることができるのかもしれない。